米国CIMdata社(*.1)は1980年代末より企業の製品データシステムに関するエンドユーザー向けのカンファレンスを開催している。時代や環境の変化やテクノロジーの進展に沿って、今年は『Collaborative Engineering through the Supply Chain(サプライチェーンを貫くコラボレーティブエンジンニアリング)』と銘打って米国カリフォルニア州のパームスプリングスで開催された。ここではカンファレンスのハイライトの一部分をお伝えする。
1. CIMdata 2001
ハイライト:デザインサプライチェーン&製品定義情報エクスチャンジ
製造業を取り巻くビジネス環境は大きく変わりつつある、いやもはや変わったと言ってよい。四半世紀前の生めや増やせの大量生産型のビジネスモデルは変わらざるを得ない。そこへ5年目くらい普及が始まったインターネットテクノロジーや新しいビジネスアプローチがビジネスモデルへの決定的な変革を招いている。しかし、これを冷静に考えてみると、何が変わったかである。よく言われる『モノつくりのこころ』が変わったか?変わっていないと断言する。所謂、QCDに裏付けられた売れる商品を出し、適正な利益を得ると言うことについては何ら変わり無い。しかし、それを実現する環境、プロセス、ならびに支援するテクノロジーなどビジネスモデルが変わったのである。そのような意味でこのCIMdataカンファレンスは昨今の企業の課題(表1参照)に対するソリューション、すなわち、製品データマネージメント(PDM)、B2B、コラボレーティブデザイン&マニファチャリング、コラボレーティブプロダクトコマース、統合製品開発(IPD)、eビジネスグローバリゼーション、デジタルマニファクチャリングなど、世界中の企業からのユーザー、サプライヤー、コンサルタント、エキスパートなど一同に招聘し、関連する重要な課題の議論、経験の共有、アイデアの交換など行う場とCIMdataはしている。
この変化に対して、デザインサプライチェーンは旧来の2次元図面でのOEMからサプライヤーへの提示からコラボレーティブな手法が移行しつつある。また、それはOEMとサプライヤーの関係の変化も変化し、共同設計者であったり、ビジネスのパートナー化と言った変化がある。それはモノつくりについて国境の無いグロ−バリゼーションや地球の時差に関係のないコラボレーティブな設計・生産活動である。この新しいデザインサプライチェーン環境に対応するための重要な課題は製品定義情報のエクチャンジ(交換とか流通)である。これは例えば、企業の合併・統合による設計&生産の製品定義情報のエクスチャンジの課題、また、グルーバル調達によるOEMとサプライヤー間やサプライヤー間の同様な課題、QCD項目の改善を含めて、エクチャンジに関わるコストなど無視出来得ない状況の事態となり、本カンファレンスでは主要なトピックスとして取り上げている。本稿ではカンファレンスを通じてこの課題の動向と方向性について焦点をあててみたい。
2. エクスチャンジ:コラボレーション環境実現のメカニズム
CIMdataはカンファレンスの中で製品定義情報のエクスチャンジという課題についてのメッセージを発し、ビジネス環境やデザインサプライチャーンの変化により、コラボレーションの時代になり、企業間のインターネットをベースにしたビジネスやインテグレーションを行う戦略の中にこのエクチャンジをいう課題を重要な位置付けに置いている。そしてエクスチャンジにはパブリックとプライベートの2つ手法をあげている(表2参照)。パブリックな市場は一般に購入部品(コモデティ)などのマネージメントや受発注などを含めサービスなどやオークションに使われている。一方、プライベートエクスチャンジは企業の競争優位を高めるものである。それらは:
- パートナーとのオンライン・コラボレーション
- 特注品の購入(コモデティでない)
- 情報やノウハウについてのコントロール(製品の開発&プロセス)
- リアルタイムなサプライチェーンマネージメント&ロジステック
などが考えられる。よって、昨今のビジネス環境に於いて、コラボレ−ション能力が重要であり、パートナー(サプライヤー、設計&製造のアウトソーシング、並びに顧客)との各々の企業の優位性を得るためにエクチャンジ(表3参照)という課題は鍵となっている。
3. ユーザー環境:自動車業界を中心に
自動車業界からの基調講演の一つのGM社は『Impact of e-Business on Product Development, A Vision for the future(製品開発に於けるeビジネスのインパクト、将来へのビジョン)』の中でクルマの市場の要求への高レベル化やリードタイムの短縮、そしてグルーバルなエンジニアリング活動をあげている。今後2年間のGMの戦略はサプライチェーンに関与するエンジニアが単一のデジタルマスターモデルで仕事が出来ること、また世界中の関係者が製品定義データへの簡単なアクセスを持つためにインターネットやPDM、ポータル、エクスチェンジ、ビジュアライゼーションなどのようなコアテクノロジーを使用出来るようにする。この計画の重要な部分はサプライヤーがOEMを介在することなくそれぞれが直接データのコミュニケーションや共有をコラボレーティブに出来るようにする新しいデータのハイパフォーマンスなピア・ツー・ピア・フローをPDMやXMLのテクノロジーと共に構築するとしている(図1)。

図1:OEMの考えるサプライヤモデルとeビジネス製品開発モデル
(GMの基調講演よりイメージ図)
この環境を構築するための鍵は関係者のあるゆる所で使用出来る『軽量数値モデル(lightweight math modelst』としている。それは全ての関係者がオリジナルのCADモデルの情報をもって製品情報をアクセスする必要がないもので、おそらく80%くらいがカテゴライズされる。このデータには企業間をも含むビジュアライゼーションやeビジネスに於けるトランザクションも含むとしている。そのために現在、GM社は軽量データフォーマット(lightweight data format、*2)を作るためにフォード、ダイムラークライスー、そして世界中で現在作業を進めている。
一方、もう一つの基調講演にはダイムラークライスラー社が『e-Product Creation, from Vision to Deployment(e製品開発、ビジョンから展開へ)』で製品開発の観点からサプライヤーの参加の重要性を論じ、サプライヤーと電子的に結ぶことでサプライヤーからの情報とダイムラークライスラーのデータマネージメントシステムを共生させる活動の説明があった。そのゴールは最終的な車両がどのようなコンポーネント、アセンブリー、そしてサブシステムで出来ているのかをフルデジタルモックアップで表現することである。これを関連付け、維持するのがPDMであるとしている。
ダイムラークライスラーとそのサプライチェーン全体のビジネスプロセスを結び付けるデジタルリンクはPDM他のコラボレーティブなテクノロジーをベースとしたFastCarと名付けられたエンジニアリングディスクトップポータルデブロップメント環境である(図2)。

図2:エンジニアリングディスクトップポータルデブロップメント環境
(DCの基調講演よりイメージ図)
FastCarは財務や購買までのビジネスシステムとデザインジオメトリーや解析結果などのエンジニアリングシステムをリンクするコラボレーティブなワークフローと変更管理のためのWebベースシステムであり、これはユーザーが速く仕事が行えるようになるばかりでなく、サイクルのより早い時点にデザインを変更したりリフェインするための製品開発の前倒しを行い、更に参加者が効果的に仕事を行うに必要な情報の単一なソースや共同の場所(CoSpace)をユーザーに与えるものとしている。これにより製品開発コストについて15〜20%の削減を期待している。尚、製品定義情報のサプライヤーとのエクスチャンジについて明確な言及はなかったが、すでに相当数の生産モデルでの100%デジタルモデル化を実施している社にとって、パートナーベンダー(IT)と歴史的関係に於いて、データモデルについては基本的に確立しているものと見る。関連サプライヤー全体への普及については今後の課題でもあることを触れている。しかし、今回のビジョンでナレッジをプロセスに組込むなど一歩進んだ内容は興味深いものである。
一方、米国自動車業界の団体であるAIAG(Automotive Industry Action Group、*3)とその支援グループ(CIMdata社、フォード社、他cPDmサプライヤー、表4参照)はデザインコラボレーションとサプライチェーンのセッションの中で昨年来進められているPDMインターオペラビリティをプレゼンテーションした。ここでは自動車業界がグローバリゼーション、コラボレーション、ジョイントベンチャー、統廃合、チームプロジェクト、サプライヤーへの責任のシフトなどの背景で製品定義情報のエクスチャンジや共有、分散化したPDM環境が更に進展、製品開発のアウトソース化(サプライベース)などの課題をあげており、PDMインターオペラビリティの調査が進められ、『B2B Requirements and Strategy for PDM Interoperability』としてまとめている(*.4)。
本カンファレンスでは、その結果として本年度のAUTO-TECH 2001(8月28〜30日、米国ミシガン州デトロイトに開催)で予定されている実装デモの進捗が報告された。業界が現状のまま、すなわち、インターオペラビリティについて向上がなければ、業界全体でおよそそのコストが1.4ビリオン$(およそ14億ドル、約1,116億円(120円/$換算))発生するとも試算されており、OEM、サプライヤー(一次、二次、3次など全てを考慮)が異なった製品定義についてのシステムを、また持ってないことをも含めて、業界として効果的なエクスチャンジの具体例を示そうというものである。
デモの内容についてセッションの中で要約された訳だが、基本的なテクロジーについてはオープンなシステムとWebインフラ(表5参照)としており、所謂製品定義情報についての範囲は図3の通りである(英原文にて)。製品開発の現場ではおそらくこの範囲について読者諸氏で議論があると思われるが、開発中なのでまだ評価を行う段階ではないし、本デモの目的は可能性の方向を示すものであると受け止めるべきである。

図3:製品定義データの範囲(Courtesy of AIAG,1/5)
デモシナリオ(図4参照)は異なったPDMシステムを持つOEMとサプライヤー、またPDMシステムを持たないサプライヤーがコラボレーションを行うものである。シナリオによれば、OEMからある構成部品の変更を行うもので(図5参照)、図中の中間的なエクスチャンジデータの変換には既存の各社のコンポーネントが使われている。また、XML変換についてはある程度の開発を行っていると報告されている。

図4:デモ、シナリオ概略(Courtesy of AIAG,2/5 )

図5a:デモ、コラボレーションデザイン(Courtesy of AIAG,3/5 )

図5b:デモ、コラボレーションデザイン(Courtesy of AIAG,4/5 )

図5c:デモ、グレイ/ブラックボックスデザイン(Courtesy of AIAG,5/5 )
これらは業界でコマーシャルベースで入手可能なコンポーネントがベースにしていることがポイントである。すなわち、製品定義情報は何らかの市販のPDMシステムを使っている、または展開されて行く、そして、業界の事実上の標準も例えば、XMLのように進展を示している。そんな環境が事実であることをベースにAIAGのシナリオがある。いずれにせよ、来るべくAUTO-TECHでのデモを期待したい。
なお、デザインコラボレーションとサプライチェーンのセッションに所謂パブリック・エクスチャンジに相当するCovisintの参加の予定がされ、報告が期待されていたが参加がなかった。また、上述のOEM各社とAIAGのセッションの内容は自動車業界の性格上、プライベート・エクスチェンジをベースにしたものだが、市場にはサプライヤー主導のパブリックが多く存在することを付け加えておく。
4. 纏め
一般にエクスチャンジというと単にCADデータ(またはモデル)の受渡しと理解され易い。それはそれで間違ってはないが、所謂、『HOW』であり、『Tactics』の世界の一部分と言わざるを得ない。本カンファレンスではどちらかと言えば、『WHAT』であり、『Strategy』を主眼に置き、そこからブレークダウンしている。これは欧米流の手法と言われるかも知れない。しかし、現実を見たらどうであろうか? グローバリゼーションという言葉に代表されるが、多くの企業(中小サプライヤー)に於いて、もはや避けられない事態である。冒頭のプロセスの違いなどこのエクスチャンジの課題に大きな影響を及ぼすことは間違いない。現実に設計変更をどうしているか、マスターが二重になってないか?折角モデルデータがあるにも関わらず、2次元データに受渡しを行い、再入力してないか?所謂、企業間やパートナー間、分散企業において、製品定義のプロセスや情報が分断したり、設計変更等を含めてコンフィグレーション・マネージメントのクローズド・ループが形成されてないことが今後の大きな課題になると思われる。
基調講演の中にも日本の品質に対抗するために戦略的意見が見受けられ訳だが、この種の日本の企業が行っている日本的な品質の作り込みやナレッジのプロセスを如何にこの新しい環境に組み入れて優位性を活かせるかが肝要であり、そのための投資が必要であり、結果的に企業の体力維持&強化になる。それが革新性(イノベーション)であり、企業によって異なるもので差別化の優位性と成り得ると考える。
現実面での製品定義情報については設計のモデル情報のナレッジが含んだものはそれなりに固有のデータモデルやプロセスが重要であり、標準化については諸々の要素で時間や困難を伴うものと考える。そうでないデータコンシューマ向けの製品定義情報、例えばGM社も言うように誰でも何処でも使い易いデータ(社が軽量データモデルと呼ぶ)は必須であり、また困難さを伴わないと見る。
標準が出来るか?この問いに対しては、基本的には業界(ユーザー&ベンダ−)の日常の活動の中での結果が全てあると考える。歴史的に自動車業界を見れば、例えば、かつてあったバッジエンジニアリングを含む数百社のOEMが数十社に統合/消滅、そして今はビッグ3に代表されるに至った。cPDmテクノロジーから見た業界でのこの課題も歴史的に考察をすれば、統合&合併(そして消滅)により切磋琢磨し発展してると言って間違いはないだろうし、そしてcPDmテクノロジーベンダーも毎日のように継続している。標準についてはこれを考慮して考えなければならない。工業の歴史を見れば明らかである。