2023.7.7:バリューチェーン全体でカーボンニュートラルへ ~サプライヤーと目指す、温室効果ガス削減の現在地 (TOSHIBA) 


この記事の要点は...

  • バリューチェーン全体で温室効果ガスを削減する、それが世界潮流!
  • 一次サプライヤーと連携し、カーボンニュートラルを目指す東芝の現在地とは?
  • 最高評価「サプライヤー・エンゲージメント・リーダー」(CDP)に選出、先を見据える前線の声
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2023年6月初旬、大型台風と梅雨前線によって日本で大雨が続き、8県で過去最多の雨量を記録した。これに対して、「大気の温暖化で水分が多く保持されるため、気候変動で豪雨のリスクが高まっている」と科学者は言う。私たちの生活を変える気候変動――その解決は地球規模の課題だ。各国がカーボンニュートラルを宣言し、GHG(温室効果ガス)の削減に取り組んでいる。それは企業も同じであり、取り組みの鍵は「バリューチェーン全体の排出量」である。企業は自らのGHG排出量だけではなく、バリューチェーンの上流(調達など)と下流(販売など)の全体(総排出量,排出源ごとの割合)を把握した上で、ロードマップを描かなければならない。

東芝は2020年に「東芝グループ環境未来ビジョン2050」を策定。全社を挙げて環境経営を進め、GHG削減は目玉の施策だ。ただし、バリューチェーンを俯瞰したGHG削減は、詳細の方法を精査している段階だ。GHG削減に向けて取り組む東芝の現在地、そして人と地球が持続可能な未来に向け、目指すべき北極星とは? バリューチェーン全体のGHG削減を考える環境推進室の福嶋香子氏、調達部でサプライチェーンマネジメントを推進する篠原恵美子氏に、GHG削減のはじめの一歩と、今後の展望を聞く。

東芝は、2050年の「バリューチェーン全体でのカーボンニュートラル実現」を目指している

今、バリューチェーン全体でGHG削減を考えるべき理由

社会全体のカーボンニュートラルを達成するためには、バリューチェーン全体に視野を広げてGHG排出量の削減を考えていくことが重要である。企業が提供する製品・サービスは、その材料の調達や使用など、ライフサイクルの各段階を通じ、自社の事業所・工場等の範囲だけではなく、世界全体に張り巡らされたバリューチェーンの活動に関与しているからだ。

GHG排出量を算定する国際基準「GHGプロトコル」は、自社の事業活動によるGHG排出をスコープ1、他社が供給する電気や熱・蒸気の使用に伴う間接的な排出をスコープ2とする。そしてバリューチェーンでの排出量を把握する際の鍵がスコープ3だ。東芝の環境活動を推進する福嶋氏が、スコープ3を巡る動きを語る。

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温室効果ガス(GHG)の主な排出区分と、赤枠がScope3のカテゴリ1

 「スコープ3は、スコープ1・2以外の間接排出、つまり自社事業に関連する他社の排出を指し、東芝のように大きなバリューチェーンを持つ企業はスコープ3が大きな割合を占め、その削減を強く求められています。スコープ3はさらに15のカテゴリに分類され、その中でも製造業にとって重要なカテゴリの1つが『購入した製品・サービス』です。

サプライヤーの皆様からGHG排出量のデータを集め、『購入した製品・サービス』由来の排出量を把握し、削減していくことはとても重要です。私たちは、バリューチェーン全体でGHG排出を抑制していくために社内の複数部門と連携しています。バリューチェーンの上流であるサプライチェーンへの展開では、篠原さんたち調達部と連携してきました」(福嶋氏)

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株式会社東芝 生産推進部 環境推進室 エキスパート 福嶋 香子氏

 GHG排出の削減が遅れれば、その分カーボンニュートラルは後退する――世界中の企業に危機感、切迫感がある。そこで、各企業はサプライヤーに対して具体的な行動を促し始めているという。

「東芝のバリューチェーンを巻き込んだ活動は端緒についたばかり。まずは、サプライヤーの皆様にGHG排出量の算定や削減を相談する必要があります。調達部門と環境部門お互いが持つノウハウを密に共有し合いながら、取り組みを本格化しています」(福嶋氏) 

広範な一次サプライヤーに、GHG調査を依頼

そもそも東芝は、グリーン調達を推進し、環境経営を推進するサプライヤーから環境負荷の小さい製品・部品・材料・サービスを優先的に購買している。この考え方のもと、これまで一次サプライヤーに対して環境に対する取り組みを調査してきた。調達部で調査を担当する篠原氏が振り返る。

「国内外の一次サプライヤー約1万社以上に、Web調査を実施しました。これまでの調査項目は、ISO14001※などの取得状況に絞っていましたが、東芝の環境未来ビジョン2050を実現するため、調査項目の全面リニューアルを行いました。

東芝の事業領域は広く、サプライヤーの業種や業態も多岐にわたります。そのため、まずはサプライヤーの皆様の現在の取り組み状況を幅広く把握させていただきたいという視点で、継続的にお取引している広範な一次サプライヤーの皆様にご協力をお願いしました。現時点で、GHG排出の目標設定や、実績管理をされているサプライヤーを把握できたのは大きな進展です。調査にご協力頂いたサプライヤーの皆様に、大変感謝しております」(篠原氏)

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株式会社東芝 グループ調達部 調達管理部 調達サプライチェーンマネジメント推進担当 エキスパート 篠原 恵美子氏

 「しかし、回答率は十分ではありませんでした。調査の依頼方法や、Web調査の使い勝手、質問内容などが原因と想定され、サプライヤーの皆様の負荷にならないよう、できるだけ回答しやすい調査になるよう改善を検討しています。

また本調査では、GHG排出の目標設定や実績管理をされている サプライヤーの皆様には、補足調査としてGHG排出量調査を行いました。その結果を検証しながら、今後はGHG高排出業種や、購買実績が上位のサプライヤーに焦点をあて、対話を重ねていこうとしています」(篠原氏)

篠原氏たちが重視するのは、「東芝がどう考え、何に取り組んでいるかを真摯に伝え、対話すること」だ。サプライヤーと一緒に考え、取り組んでいきたい。そんな思いが根底にある。

政府や投資家、消費者といったステークホルダーの要請を受けてから動くのではなく、将来世代のことを考え環境経営を展開する。環境推進室の立場から、福嶋氏は「先手の気候変動対策が、企業価値の向上につながることをサプライヤーの皆様と共有し、『購入した製品・サービス』由来GHGの削減を推進していきたい」と語る。そして次のように続けた。

「そのためには、東芝の中で足並みを揃えることも大切です。サプライヤーの皆様と日々向き合うのは、東芝の各事業組織です。各事業組織の調達・環境両担当者の理解が、この活動の成否を左右します。私たちは両担当者への説明会などを通じて、目的や内容を共有した上で、意識の醸成を図ってきました。

また、環境の観点で見るべきはGHG排出だけではなく、水や生物多様性など多くの課題を視野にいれる必要があります。世界の潮流が加速する中、このような要素をどのように活動に織り込んでいけるのか? 篠原さんとの議論は尽きません」(福嶋氏)

環境未来ビジョン2050への道――GHG削減に活かす「連携」のかたち

「購入した製品・サービス」由来のGHG削減について様々な方法論が国際的に議論されている段階で、現在進行形で試行錯誤が続く。それが、多くの企業における環境経営の実像だろう。東芝もアクセルを踏み、ギアを上げて前進する中で、その過程を外部機関から評価された。2023年3月、気候変動に関するサプライヤーとのエンゲージメントを評価する「サプライヤー・エゲージメント評価」にて、最高評価「サプライヤー・エンゲージメント・リーダー」に選出されたのだ。評価したのは国際的な非営利団体CDPだ。

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東芝は、サプライヤー・エンゲージメント・リーダー(CDP)に選出された

 「この評価について社内SNSで共有したところ、多くの調達担当者から『いいね!』をもらいました。目に見えるかたちで成果が表れたことがうれしいし、今後の取り組みを進めていく上での励みになりました」(篠原氏)

「篠原さんが言われた東芝社内に加えて、協力してくださるサプライヤーの皆様が東芝を見る目も変わってくるかと思います。GHG削減の活動が進めやすくなれば、という思いです。ただ、CDPの調査内容は、世界の流れに合わせて年々見直され続けています。私たちも単年の評価に一喜一憂することなく、日々活動を発展させていきます」(福嶋氏)

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環境や社会の問題が複雑さを増す中で、企業には経営戦略と一体となった課題解決が求められる。持続可能な環境・社会の構築と、持続的な企業の成長を両輪で進めるために――環境推進室と調達部は、2050年に向け着実に歩みを進めている。最後に、個人的な思いも含めて両氏の言葉を聞こう。

「調達部と環境推進室、本社と各事業組織の調達担当者・環境担当者、そしてサプライヤーや業界内の同業他社、それぞれで『連携』が鍵になります。社内の先例がないだけに役割分担や進め方も手探りですが、見合っていては何も進まないし、100点にこだわったら何にも取り組めません。世の中の動きがますます加速する中、足元のやれることから取りかかっていきます。大変さはありますが、体当たりで試行錯誤ができる、面白い面もあると感じています」(篠原氏)

「篠原さんの言うとおりですね。GHG排出削減を含め、ただ『お願い』するのではなく一緒に歩んでいく姿勢でサプライヤーの皆様と向き合い、共に価値を創出していきたいですね。東芝は、エネルギーから省エネを支えるパワー半導体まで、カーボンニュートラルを実現する様々の技術を提供しています。つまり、サプライヤーの業種も様々で、GHG削減戦略も様々。今後とも相互理解のために、サプライヤーの皆様とのエンゲージメントを重ねていきたいと考えています」(福嶋氏)

GHG排出を削減する挑戦は、社内からバリューチェーン、業界から社会へと広がっていく。2人の静かな気概と目線の先に、持続可能な人と地球の明日を描く、東芝ならではのGX(Green Transformation:GHG排出削減と競争力を両立させる取り組み)が見える。

※ ISO14001:ISO(International Organization for Standardization:国際標準化機構)が定めた環境マネジメントシステムに関する国際規格

関連サイト

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